高リスク前立腺癌に対するわれわれの考え

PSA20ng/ml以上、もしくはグリソンスコアが8以上の癌は高リスク前立腺癌と呼ばれ、従来の治療方法では再発率が高く難治性の癌と考えられてきました。近年、こういった高リスク前立腺癌に対しては、小線源治療と外部照射を組み合わせた超高線量照射を行うことにより治癒率を高めることができるというデータが先のマウントサイナイ医科大学をはじめとした欧米の先端施設から示されています(図2)。

高リスク癌に対するトリモダリティ治療

小線源治療と外部照射を組み合わせた超高線量照射は、外部照射だけによる放射線治療に比較して遥かに高いエネルギーが照射できるというメリットがあります。 こういった超高線量照射に短期的なホルモン治療を併用すること(高リスク癌に対するトリモダリティ治療)で非常に優れた治療成績が示されており(図2)、われわれの施設でも高リスク症例に対して積極的にトリモダリティ、すなわちホルモン治療+小線源+外部照射による治療 を行っています。なお当院ではホルモン治療が必要な高リスクや一部の中間リスクでも小線源治療終了後、原則6ヶ月以内にホルモン療法を休止としなるべくホルモン療法の副作用を必要最小限に留めるように配慮しています。

これまで高リスク前立腺癌 (T3a や精嚢浸潤のあるT3b, また骨盤内リンパ節転移のある方を含む)に対してわれわれがトリモダリティ治療をおこなった結果 5年のPSA非再発率は95.2% で 再発症例は全例が診断時に同定できなかった遠隔転移(骨転移)による再発という結果でした(Journal of Cotemporary Brachythreapy, 2017)。<a href="http://www.termedia.pl/High-biologically-effective-dose-radiation-therapy-using-brachytherapy-in-combination-with-external-beam-radiotherapy-for-high-risk-prostate-cancer,54,29511,1,1.html



欧米主要施設での治療法別データ


図2: Prostate Cancer Results, Study Group の解析による欧米主要施設での治療法別データ

中間リスク前立腺癌に対するわれわれの考え

低リスク、高リスク以外の転移のない前立腺癌は中リスク前立腺癌に区分され、一般的にはPSAが10-20ng/mlもしくはグリソンスコアが7の癌がこのグループに相当します。

小線源治療を含めた放射線治療を非転移性の前立腺癌に対する一次治療として選択する場合、再燃に対しての治療法がホルモン療法に限られる事から、再発をおこさない治療を行うことがきわめて重要と考えられます。治療にあたって、われわれは再発をおこさないよう細心の注意をはらっています。中間リスク前立腺癌に関しては基本的に放射線の線量さえ高く設定できればホルモン治療をおこなうことなく基本的に小線源単独治療で対応しています。

小線源単独高線量治療

以上のような観点から、各リスクの前立腺癌については完治に至る十分な線量を照射できる治療法の選択を患者さんにアドバイスしています。われわれの小線源単独治療は、高線量(D90=190-200Gy: D90とは前立腺の90%に照射された線量を意味します)で治療をおこなっています。この線量は外部照射相当で100Gyを遥かに超える線量に匹敵します。そのため中間リスクでも病変が広範囲でなければ、現在われわれは、ほとんどの中間リスクの患者さんに対してホルモン治療や外部照射の併用をおこなうことなく小線源のみで治療しています。外部照射という通院、入院の手間なく体の負担が少ないことはもちろんのこと、経済的にも時間的にも非常に多くのプラス面が多くあります。

一方、中間リスクでも高リスクに近いと考えられる症例では外部照射併用で治療をおこなう場合もあります。この場合も下記の理由でホルモン療法は原則的におこなっていません。小線源単独あるいは小線源と外部照射の併用のいずれの場合であっても格段の配慮をもって治療にあたっています。われわれは高リスク以外の前立腺癌については ホルモン療法を極力おこなわないという方針で治療しています。その理由としてホルモン療法には骨粗鬆症や心血管系への副作用以外にも高脂血症、耐糖能異常、認知力低下、骨髄機能低下などのさまざまな副作用があるからです。



低リスク前立腺癌に対するわれわれの考え

2020年現在、低リスク前立腺癌にはアクティブサーベイランスが勧められるべきであるという考え方が主流となっており、低リスク前立腺癌において以下のような治療は現在実施しておりません。

低リスク前立腺癌、すなわちPSAが10以下でグリソンスコアが6以下の前立腺がん患者さんの場合は、手術や外部照射など、さまざまな治療により比較的良好な治療成績が得られることが知られています(図1参照: Prostate Cancer Results, Study Group の解析によるデータ)。一方、小線源治療を低リスク症例に行う場合は単独治療の良い適応となります。これらの患者さんに対してはリアルタイムによる術中計画法を用いることにより正確に高い線量の照射ができますので、外部照射で90-100Gy以上に相当する放射線を当てることができます。

近年、こういった方法をHigh Quality Implantと呼んでいますが、この方法を用いて低リスクの患者さんを治療した場合、先端施設のデータでは10年近くみてもほとんど再発がおこらない状況まで治療成績を高めることができています(図1)。

欧米主要施設での治療法別データ

図1: Prostate Cancer Results, Study Group の解析による欧米主要施設での治療法別データ